Article: 苔香居ツアーレポート|文化財に息づく“暮らしの美”をたどる一日
苔香居ツアーレポート|文化財に息づく“暮らしの美”をたどる一日
2025年6月7日(土)、京都・桂に佇む文化庁登録有形文化財「苔香居(山口家住宅)」にて、cravatta by renacnatta主催の文化体験ツアーを開催しました。
歴史ある邸宅を訪ねて
午前10時、ツアーはご挨拶から始まりました。
主催であるcravatta by renacnatta代表・大河内、ディレクターの科田、運営スタッフの松村に加え、苔香居の二十代当主・山口俊弘さん、そして日々この邸宅を支えるスタッフの皆さまからもご紹介をいただきました。
案内をしてくださったのは、苔香居の管理を担う晴山さん。
数寄屋造りの細やかな建築要素や、かつてこの場所で営まれていた暮らしについて、丁寧に説明してくださいました。
とくに印象的だったのは、広間のふすまに使われていた「京唐紙」。和紙の上に浮かび上がるような文様の濃淡、手仕事の風合いに、参加者の皆さんからは感嘆の声が上がっていました。
茅葺き屋根にも注目が集まりました。約30年に一度、数千万円をかけて修復が行われるとのこと。その維持の大変さと美しさに、建築の奥深さを改めて感じました。
敷き瓦や茶庭などもじっくり見学。案内がなければ見落としてしまうような細部の工夫に触れることができ、暮らしと建築が一体となっていた時代の豊かさを実感しました。
禅のワークショップで、思考と感覚をひらく
見学のあとは、南禅寺禅センター出身の元僧侶・大角康さんによる禅のワークショップへ。
参加者の皆さんに名前とその由来を語っていただく自己紹介からスタートし、自然と空気がほどけていきます。
禅の修行には「作務(日常の労働)」「坐禅」「公案(禅問答)」という3つの柱があるそうです。今回は、そのエッセンスを短時間で体感するプログラム。
一休禅師の逸話をもとに投げかけられた問いに向き合い、いったん坐禅で呼吸に意識を向け、また問いに戻るという流れを実践。
庭に面した広間で、呼吸に意識を向ける静かな時間を過ごしました。日々の忙しさから離れ、思考を手放す感覚を味わっていただけたのではないかと思います。
おくどさんのごはんと、手仕事の喜び
禅の時間のあとは、かまどを囲んでのごはんづくり。
火吹きも体験しながら、ご飯が炊き上がるまでの時間をゆったり過ごします。
炊きあがる直前の香りの変化や、こんがり焼けたおこげに、「これこそ贅沢」との声も。
お味噌汁と自家製のお漬物を添えて、素材そのものの味を楽しむ昼食となりました。
名刺香ケースづくりワークショップ
午後は、苔香居に眠っていた着物地を使った名刺香ケースの制作。
運び込まれた生地の中から、皆さんが直感で選んだ柄には、それぞれの個性があらわれていました。
手縫いに苦戦しながらも、最後には「世界に一つだけ」の名刺香ケースが完成。
かつて誰かの装いだった布に手を添えながら、参加者のみなさんがそれぞれのペースで、自分だけのかたちを生み出していく姿が印象的でした。
建物に、暮らしがあるということ
最後は全員でご挨拶を交わし、ツアーは終了しました。
苔香居のような文化財邸宅が、いまも人の暮らしとともにあるということ。
そのなかで守られ、引き継がれている所作や空間の美しさは、単なる「保存」ではなく「生きている文化」であることを教えてくれました。
建物と人、時間と暮らし。
その交差点に身を置くような一日でした。
山口当主をはじめとする苔香居のみなさま、そしてご参加くださった皆様、ありがとうございました。
苔香居に眠っていた着物地をつかったコレクションも現在販売中です。
そちらの売り上げは10%が寄付として苔香居に贈られます。
ぜひご覧くださいませ。